互いに求むるはその慾









「なあ、望美」

 夕食のとき知盛が語りかけるように言った。

 妙だ。

 こんな風に優しさを含んだ言い方を知盛がするなんて。

「どうしたの?」

  望美の質問には答えずに、知盛が席を立つ。

 そして傍まで来ると、望美を抱き寄せるように手を伸ばした。

 そこでぴんときた。知盛と言わんとすることは……きっと……。

「ダメ。明日は学校なんだから」

 望美は知盛の手から逃れるように、椅子ごと後ろに下がる。

「何故だ? もう四日間も我慢してるんだ。そろそろ優しくしてくれてもいいじゃないか?」

 囁くようなけだるい口調にぞくっとしつつも、

「早く食べないと、冷めるよ」

 話題を変えるように、望美はテーブルの上を指差した。

 テーブルにはスパゲッティーが載っていた。

 これは望美が先日、母と作ったものだ。

「冷えてもまた温めればいい。幸い、神子殿の世界には電子レンジという便利な道具があるからな」

「そういう問題じゃない。ご飯食べないと身体に悪いよ」

「食べない、とは言ってないさ」

「な、何?」

 息がかかるほど顔を近づけてきた知盛に、望美は頬を赤らめる。

 慣れてきたとはいえ至近距離で見つめられるのは恥ずかしい。

 知盛の自分の心を見透かすような視線に、甘い欲望が疼きだすのを感じる。

 ダメだ。

 明日は学校だし、遅刻したら大変だ。

(二人とも朝起きられないことわかってるから、平日は断ってるのに……。どうしてわからないのかな)

 望美は心の中で呆れたように溜息をついた。

「クッ、そんなに熱い眼差しで俺を見るなよ。やはりお前も俺と同じように飢えてるようだな」

 知盛の声で望美ははっと我に返る。

 慌てて首を振り、違う、と否定する。

「少しぐらい俺の相手をしてくれたっていいじゃないか。つれないぜ、神子殿」

「金曜日、明日になったらいいから」

「待つのは……面倒だな」

「四日間も待ったんだから、あと一日ぐらい待てるでしょう?」

「待たせるほうはそう苦にならないだろうさ。待つほうは……辛いぜ。日々じりじりと身を焦がされてゆくような気分を味わうんだ。望美、お前も味わってみるか?」

「いいです」

 望美は即答する。

「さ、知盛。席に座って。早く食べよう」

 望美の促しに知盛は動じなかった。

そして、クッと喉を鳴らすように哂った。

「あぁ、食べるさ。お前という馳走をな」

 知盛は言うが早いか、望美を抱き上げた。

 そのまま肩に担ぐようにして寝室に望美を運んでゆく。

「ゆっくり味わってやるさ。お前を……な」




***++





 知盛は乱暴に望美をベッドの上に放り投げた。

 望美の上に馬乗りになると、有無を言わさず知盛は彼女の服を脱がせてゆく。

 糸一つ纏わぬ姿にすると、知盛は愉しむように舌なめずりをした。

「ダメ! それ以上したら怒るからね!」

 襲われる寸前になってもなお気丈に振舞う望美を見て、知盛は感心したように口の端を歪めた。

「あぁ、怒ってみろよ。お前が怒りを忘れるぐらい、夢中にさせてやるぜ」

「知盛!」

「今日はいつもと違う趣向でいってみようか。神子殿も飽いてるだろう?」

「どういう意味よ」

「腕を上げてみな」

 知盛がふいに命じた。

 意味がわからない。望美が迷っていると、知盛がもう一度繰り返した。とりあえず望美は知盛の言葉通り、腕を上げることにした。

「そうじゃない、頭の上に持ってゆくんだ」

 言われたとおり、望美は頭上に両手を持ってゆく。

 知盛が口の中で何かを呟いた。

 それはまるで呪(しゅ)のようで……。

(か、身体が動かない……。束縛付与!?)

 縛られたように身動きが取れない。

 望美は術に抵抗するように身体をよじった。

 が、金縛りにあったように指先、髪の毛一本すら動かすことができない。

 動かそうと思うたび、筋肉が強張ってゆく。

 何もできないことがわかると望美は知盛を睨みつけた。

「これがいつもと違う趣向なの?」

「あぁ。まだ俺の知らないお前を愉しませてもらうぜ」

 知盛が薄く哂う。

 そして望美の胸の先端にゆっくりと舌を這わせた。

「あんっ」

 望美の唇から甘い声が漏れる。

 舌先で転がすように先端を舐められ、ちゅっと先端を強く吸われた。

 あいたほうの胸はゆっくりと揉みしだかれた。

 硬くなった胸の先端を潰すように愛撫されるたび、甘い痺れが体中に走る。

 いつもと変わらない愛撫なのに。

 何かが違う。

「あ、あぁんっ」

 望美はもどかしげに声をあげた。

「これ以上は……ダメ」
 
 知盛から逃れたいのに、声を上げることしかできない。

「クッ、いい声を聞かせてくれる。身体が動かないと、声に出るんだな。ぞくっとするほど艶やかな声だ。もっと啼いてくれよ、俺のために」

「変態!」

 望美は術にかけられていなかったら、知盛の顔を思いっきりつねりたいと思った。

「クッ……声だけは元気がいいんだな。飢(かつ)えてるのか? 時間はまたたっぷりあるのに……貪欲な神子様だ」

「ち、違う! それより、術を解いて!」

「それは無理だ。動けないお前も、なかなか興をそそられる。クッ、いいじゃないか。いっそこのまま最後までいってもいいぜ、俺はな」

「と、知盛!」

「そろそろ、こちらが俺をご所望のよう……だが」

 知盛が望美の下半身に手を伸ばす。

 皮肉なことにだらしなく足を開いたまま、術をかけられていた。

 身体が動かせないまま、触られたらどうなるだろう。

 きっと今までにないいやらしい声を出すのではないだろうか。

 早く術が解ければ……。

 知盛の指が性器に触れた。

「感じてるな」

 濡れているのを確認するかのように、知盛がゆっくりと芽を擦りあげる。

 心地よい愛撫に思わず淫らな声が零れ落ちた。

「はっ、あぁぁんっ!」

 望美は切なげに眉間に皴を寄せる。

 慌てて歯を食いしばり、声が漏れるのを抑えた。

 知盛はそんな望美の反応を愉しむように、さらに強く芽を愛撫した。

 そろそろ時間的に術が解ける頃だろう。

 救われる、だからもう少しだけの我慢だ。

 術が解けるまでの時間が永遠に感じる。

(も、もうやめて! それ以上されたらおかしくなっちゃう!)

 どくどくと蜜壺から溢れる愛液。

 知盛の愛撫で疼きはじめた花芯。

 知盛の手から逃れようと、望美は夢中になって身をよじる。

 そのとたん、がくんと身体が揺れた。

 勢いをつけたせいかヘッドボードで手の甲をしたたかに打ってしまった。

 痛みを堪えながら、望美は何かが違うことに気づいた。

 身体の強張りはもう消えている。

 恐る恐る身体を動かしてみる。

 指先、首を。

 頭の上においていた腕をゆっくりと下ろした。

 ヘッドボードで打った手をさすっていると、

「……解けた、ようだな」

 知盛が不満げな声を漏らした。

 望美は汗ばんだ額を手で拭い、

「知盛、もうやめよう」

「ここまできてか?」

 クッと喉を鳴らし、知盛が冗談じゃないと言うように口の端を歪めた。

「そもそも、学校のある日はしない、って約束だったでしょ?」

「約束ねぇ……」

「明日まで、お預けだよ」

「無理だ。俺は今日、お前を戴くぜ。最後までな」

 知盛は望美を押し倒し、その上にのしかかった。

「ん……んんんっ」

 知盛の強引な口づけに望美は戸惑いながらもそれを受け入れる。否、そうするように教え込まれたのだ、知盛に。

「んんっ……はっ、ふ」

 長い口づけがやっと終わった。

 互いの唇から糸を引く銀色の液に、望美は羞恥を覚える。

「その唇で俺の名を呼んでみろよ」

 そう言いながら知盛が抱擁する。

 あぁ、もう完全に知盛のペースだ。

 きっと空が白み始めるまで放してくれないだろう。

「してもいいけど、絶対、朝起こしてよ。起こさなかったら、一週間、身体に触るの禁止だからね!」

 精一杯最後の抵抗を試みる。

 無理やり欲望に火をつけられたうえに、束縛付与までされたのだ。

 これくらい言っておかなくては。

「俺が期待したのは、お前の熱いささやきだったのだが……。いいぜ。その代わり、俺を満足させてくれよ?」

 唇に軽くキスをすると、知盛は望美の両足を立たせ、その中心に顔を埋めた。
 







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