望美は悩んでいた。
その商品を買うかどうかを。
陳列棚ではなく、その前の目玉商品が置いてある場所。最近発売された菓子の新商品が並んでいる。
(食べたいなあ)
望美はチョコポテト〈塩味〉と書かれている箱を手に取った。
ポテト・塩・そしてチョコレート。なんて素晴らしい組み合わせなんだろう。ごくりと望美の喉が鳴る。
望美はここ一ヶ月、菓子を食べるのを我慢していた。
というのも、久しぶりに会った中学生時代の友達が菓子を食べなくなって一年間で、五キロ痩せた、と話していたからだ。望美の目から見てもその友達は確かに、前に会ったときよりも痩せ、すっきりとした身体、くびれのあるウエストを手に入れていた。
望美自身、決して太っているわけではない。痩せすぎでもないし標準体型というべきだろうか。
彼氏がいるならやはりベストな体型で、というのが乙女心。望美もその一人で、やはり彼氏のためにスリムになる努力をしていた。
望美はちらりと腕時計を見た。時間は六時半。望美がスーパーに着いたのが五時半だったからもう一時は悩んでいることになる。早く帰って料理をしないといけない。
(えぇい! 買っちゃえ! ちょっと食べるぐらいなら、大丈夫だよね?)
望美は勢いよく買い物カゴの中にチョコポテトを入れた。
夕食の材料に必要なものはすべてカゴの中に入れていた。レジは六時からのセールのためか、主婦たちで混んでいた。小さな子供がお菓子を買ってほしいと駄々をこねる声が聞こえてくる。
急いでレジを済ませ、自動ドアを跨いだところで望美は足を止めた。
「う、そ」
色の濃くなったアスファルト。見上げれば、空からざあざあと流れるように雨が降っている。望美は慌ててスーパーの中に戻った。
灰色の雲、湿った空気。雨が降りそうな予感はしていた。だが、まさか降るとは思わなかった。
望美は手に持っていた白いビニール袋を見て、苦笑した。
(夕食の買い物だけだから、すぐ終わるって思っていたけど、お菓子を買うかどうかでかなり迷っちゃったもんね)
家からスーパーまで歩いて五分。買い物のメモはあるのだから、ちゃっちゃと選んで買っていたら雨が降る前に帰れただろう。
望美は少しの間、自動ドアの前に佇んで、外の様子を窺っていた。
(やむかな)
できることならやんでほしい。傘は買いたくない。
切に願う望美の気持ちを嘲笑うかのように、雨はますます激しさを増してゆく。風によって窓に大量の雨粒が叩きつけられる。
望美は腕時計を見た。六時五十分。同棲している惟盛が帰ってくる時間だ。もう、いい加減に戻らないといけないだろう。
望美は商品の入ったビニール袋の口を結び、雨が入らないようにした。
鞄は持ってきていない。服は洗濯すればいいし、靴は新聞紙で水を吸い取らせればいい。
透明なビニール袋を一枚もらう。頭に当て、少しでも雨をしのぐためだ。
自動ドアが開くと同時に、望美は駆け出した。
マンションに戻ったとき望美はずぶ濡れになっていた。歩く度に靴に入った雨水、濡れた服が肌に張り付いて、気持ち悪い。
鍵を回し、玄関のドアノブを引いた。だが開けられない。施錠されている。
(もしかして惟盛が先に帰ってるのかな)
望美はもう一度鍵を回した。
「ただいまー。惟盛、帰ってきてる?」
玄関に入ると望美は大声で呼んだ。もしいるのであれば、タオルを持ってきてくれるとありがたい。
「お帰りなさい、望美」
Tーシャツにジーパンというラフな格好で現われた惟盛は、望美の姿を見てぎょっとしたように目を丸くした。
緩く波打った茶の髪に手を当て弄りながら、惟盛が尋ねる。
「どうしたんですか、その姿は」
「見てのとおり、雨に降られたの」
「傘は持っていかなかったんですか? 雨が降ると天気予報で言ってたでしょう?」
「う、うん。そうだったかな。ねぇ。タオルを持ってきてくれない?」
望美は玄関の床を指差した。雫で黒くなっている。
惟盛は溜息をつくと、わかりました、と言った。
「あ、これ」
背を向けた惟盛を呼び止め、望美は白いビニール袋を渡した。
望美は惟盛が持ってきたタオルで服についていた水分を拭き取った。そのまま浴室へ向かう。
シャワーを浴び、雨水を流す。
タオルで身体を拭き、さて着替えようとしてはっとした。
着替えを持ってきてない。
惟盛の名を呼ぼうとして、望美はその言葉を飲み込んだ。
いくら同棲しているとはいえ、服を持ってきてなんて頼めるはずがない。それに自分は何も着てない状態だ。これでは、事情が事情でも、襲ってくれとアピールしているようなものだ。
望美はバスタオルを身体に巻くと、着替えを取りに自分の部屋に向かおうとした。
扉を開け一歩踏み出したとたん、やわらかいものにぶつかった。
「こ、惟盛!? まだ着替えているから」
ドアを閉めようとする望美を惟盛は止める。
「着替えです」
惟盛は手を差し出した。そこには望美の服が載せられている。
「着替えがなくてお困りだろうと思いまして」
「ありがとう」
そう言って望美は服を受け取ろうとした。が、何を思ったのか、惟盛はそれをさっと持ち上げた。望美と惟盛の身長差は約三十センチある。望美がどんなに手を伸ばそうと、高く上げられた服には届きそうにない。
取るのを諦め、望美は手を下ろした。いったい惟盛はどうしてくれないのだろう。
望美の心を見抜いたかのよう惟盛は言った。
「渡すために来ましたが、あなたの姿を見て心が変わってしまいました」
「へ?」
望美は言われた意味がわからなくて、惟盛を見上げる。
「こういうことですよ」
意地悪く微笑むと、惟盛は望美の唇にキスを落とす。
惟盛の手から服が落ち、ぱさりと音がした。
「ちょっと、こ、ここでするの?」
望美は抱きついてきた惟盛を引き離した。
「ベッドなら構いませんか」
「構いませんか、ってそういう問題じゃない。夕食も作らないといけないし……」
「夕飯は私が作りましょう」
「そんな」
「だいたい濡れて帰ってくるなんて……風邪を引いたらどうするんです? 少しは自分の身体を大切にしなさい。前も、傘を忘れて出かけて、風邪を引きかけたでしょう?」
「う、うん」
力なく望美は頷く。
「でもこれとやるのは関係ないじゃない」
「お仕置きといえば問題ありませんか?」
「お仕置きって……き、きゃぁ!」
ひょいと抱きかかえられた。惟盛は望美を横抱きにしたまま歩き出す。
有無を言わせず惟盛はバスタオルを剥ぎ取ると、望美を自室のベッドに下ろした。
惟盛は望美の上に覆いかぶさった。
T―シャツの隙間から見えた、惟盛の鎖骨に望美の心臓がどきりと高鳴る。
「ねぇ、お仕置きって?」
望美は先ほど言えなかったことを尋ねた。
「教えてほしいですか?」
もちろん、教えてほしい。
望美は首を縦に振った。
「望美が傘を忘れないようにするにはどうしたらいいかと考えました。そのためには身体に覚えこませるのが一番だと」
「は?」
どういう意味なのか聞こうとしたが、それは言葉にならなかった。なぜなら、惟盛に唇を塞がれたからだ。
「んんんっ……」
啄ばむように口づけをされ、望美は甘い声を漏らした。
「んっ……あん……」
胸の先端を軽く摘まれる。
やわやわと胸を揉みしだかれ、先端を吸われる。もう一方の胸も、手のひらで優しく愛撫される。
「あっ……んんっ」
硬くなった先端をこりこりと擦り上げられ、望美は腰を浮かせる。
「感じているようですね」
「感じてなんか……あっ」
無理やり足を広げられる。惟盛は望美の両足を立てると、茂みを掻き分け密部を触った。
「濡れてますね」
惟盛の言葉に望美は恥ずかしさのあまり赤くなった。
愛液でぬめった花芯を惟盛の指がゆっくりと撫でる。徐々に花びらが開き、蜜壺からさらに愛液が溢れ始める。
「あぁぁんっ」
まだ隠れている芽を指の腹でゆっくりと撫でられる。
惟盛の指が動く度、気持ちがいい。
軽い波がやってきた。
と、惟盛はふいに愛撫をやめた。
「惟盛?」
「お仕置きですから」
惟盛は望美の蜜壺の中に指を挿入れた。解すように胎内をゆるゆると弄られる。望美の弱いところを中心に指先で擦り上げた。
「やっ……あんっ……」
望美は腰を震わせた。
密壺と剥き出しになった芽を同時に愛撫される。掻くように膣壁を、小刻みに芽を弄られる。
「あぁぁぁぁぁぁぁあん!」
望美は嬌声を上げた。焦らされた分、いつもより波が大きく感じる。
望美が軽く達すると、
「やはりイってしまいましたか」
惟盛は忌々しそうに呟いた。
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