大きな荷物が歩いてきたら







 どしんと誰かにぶつかった。

 ふたり分の驚いた声が透廊に木霊する。

「誰?」

 思いっきりぶつけた額を押さえながら、望美は衝突した相手を睨んだ。

 銀色の髪が目の前で揺れる。続いて面倒くさそうな吐息が落ちてきた。


「あぁ、神子殿だったのか。巻物を抱えた者が歩いてきてる、と思っていたが……まさかぶつかるとは、な」


 ゆるゆるとだるそうに知盛は髪をかきあげる。

 昼間だというのに知盛は眠たそうだ。

「わたしが歩いているのに気づいていれば、避けてくれてもよかったのに!」

「気がつかなかったんだ。申し訳ない】

「だったら仕方がないけど……。でも、どうしてくれるの? 巻物、全部散らばっちゃたんだよ?」

 望美は床の上の巻物を見て叫ぶように言った。


 落ちた表紙に紐が解け開いてしまったもの、ごろごろと転がり廊下の端の方までいってしまったもの、ばらばらになっていた。


 集めるのはいいが、運びやすいようにするのが大変だ。巻物は円形をしている。十数の巻物を落ちないようにバランスよく持つのは結構骨が折れる。


「…………どうしてそんなに沢山の巻物を運ぶ必要があるだ?」

「弁慶さんの部屋の掃除を手伝ってるの。ほら、今日は天気がいいでしょう?」


 ふわりやわらかな春風が頬を撫でる。昼寝にはもってこいのあたたかな春の陽が降り注いでくる。


「そうか」

 興味なさ気に知盛は相槌を打った。

「邪魔して悪かったな」

「ちょっと、待ちなさい! 知盛!」

 去ろうとした知盛の袖を慌てて望美は引っ張った。

「ん……?」

「巻物、運ぶの手伝ってよ!」

「巻物?」

「そうだよ、巻物。これだけ運ぶの大変なんだから!」

 望美は床に転がった巻物を指差した。


「それに折れたり汚れたりしてたら、弁慶さんに謝らないといけない。そのときは知盛にも謝ってもらうよ。だから、手伝って」


「……仕方ないな」

 納得のいかない、というように呟くと、知盛はしゃがみこんだ。のろのろと巻物を拾いだす。


「ありがとう。助かるよ」

 望美も巻物を拾い始めた。

「望美」

 ふいに甘い声で呼ばれた。

「きゃっ」

 振り向こうとした矢先、いきなり後ろから抱き締められ、望美は小さな悲鳴を上げる。

「どうしたのよ、急に」

 瞠目する望美に知盛が意味ありげに目を細めた。

 ふと眼前が暗くなり、唇にふわりとあたたかいものが触れた。

(と、知盛!?)

 驚いている間に唇は離れ……。

「クッ……続きは後でたっぷりと味わわせてもらうからな。手伝う駄賃だ。安いものだろう?」

 文句を言おうとした唇に、再び口づけが落ちてきた。





END



*お題 恋したくなるお題(配布)様



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