*注意 このお話はギャクっぽさを目指しています。
人によってはキャラ崩壊と感じる可能性があります。
設定としてはかなり強気な望美ちゃんとそれをちょっと苦手だなあっと思っている将臣くんです。
こんなふたりでも大丈夫だよ♪ という方のみスクロールをしてお読みくださいませ!





















おにぎりの行方



「おいおい、なんだこりゃあ」

 リビングに入ってきた将臣はテーブルの上を見て目を丸くした。

「見てのとおりだよ、将臣くん」

 桜色のエプロンをした望美が言った。キッチンに譲の姿が見えた。たぶん、望美におにぎりの握り方を指導しているのだろう。

「見てのとおりって……そりゃあ、確かにおにぎりを握ってるってのはわかるけど。なんだよ、この量!」

 大皿に積み重ねるようにして載せられたおにぎり。

「今日はピクニックに行くのか? だとしても、こんなに沢山食べきれないぜ」

(ま、食べる前に、味の問題があるわな)

 将臣は心の中で呟く。

「これはね、将臣くん。全部失敗したやつだよ」

 ぎゅぎゅっとおにぎりを握りながら望美が言う。

「これだけ全部!?」

 思わず、声が裏返りそうになる。確かによくよく見れば、皿の上のおにぎりは形が微妙ものや、不恰好なものが多かった。

(料理音痴じゃなけりゃあ、悪くないのにな)

「あ、今、ヘタだなあって思ったでしょう?」

「そんなことないぜ」

「うそ、顔に書いてあるもん」

「先輩、真剣に握らないと、また失敗しますよ」

 むくれた望美を宥めるように、キッチンから出てきた譲が言った。譲の手には鍋が握られている。

「譲、それもしかして……」

 わなわなと鍋を指差した将臣に、

「えぇ、ご飯です」

(どんだけ、作るんだ? つーか、誰のために握ってるんだ?)

 望美の一生懸命さからすると、誰かにあげるために作っているのだろう。

「このおにぎり、作ったあと誰かにあげるのか?」

「うん」

 望美は頷く。彼女の手のひらでは次のおにぎりが握られていた。

「誰にあげるんだ?」

 気になるところだ。

「秘密だよ」

 望美は何故か嬉しそうに言った。

 誰だ? 凄く気になるんだが……。望美の手料理を食べることになる可哀想なやつの顔を見てみたい。質問する前に、譲が、

「兄さん、ぼんやりと立っているだけなら出て行ってくれ。先輩が集中して作れないじゃないか」

 作るったって、おにぎりだろう? 幼馴染の家に乗り込んで、作るべき代物じゃないと思うが……っと心の中で突っ込んだのは内緒だ。

「仕方がねぇな。一生懸命料理(?)作ってる横で、暢気に食べてられねぇな。コンビにでも……」

「あ、兄さん。どうせならこのおにぎりを食べたらどうだ?」

「譲くん!」

「あぁ、そうでしたね。すみません、先輩」

「譲? 望美?」

 将臣が首を傾げていると、

「好きなようにしてくれ、兄さん。引き止めてすまない」

 急に態度を変えた二人に将臣は釈然とした気持ちでいたが、

「さ、行った、行った」

 譲に追い出されるようにしてリビングを出る羽目になったのだった。






*****





 自筆に戻った将臣は、菓子パンと対面していた。コンビニに行かなくても菓子パンを買っていたことを思い出したのだ。

「朝食が、パン一個ねぇ」

 明らかに足らない。この倍は食べなければ。

「非贓品のラーメンを食べたいんだがなあ。あいつがいる間は無理、か。 中途半端に食っても余計腹がすくだけだし。もう一眠りするか?」

 将臣は自問自答する。

「いいや、眠らないでおこう。で、もう少し待つことにするか」

 おにぎりを握るのに、何時間もかからないだろう。たぶん。

「ゲームでもしてりゃ、時間が経つな」

 将臣はPSP持つとベッドの上に寝転がったのだった。






*****





「兄さーん、兄さーん、起きてるか?」

 譲の声とともにどんどんとドアをノックする音が聞こえた。

 将臣はゲーム画面から目を離すと、

「どうした? 譲。俺はここにいるぜ」

「先輩の料理が終わったことを伝えようと思って」

「おぉ、ありがとな」

 やっと飯にありつける。

 将臣は嬉々として降りていった。






*****





「お、俺のために作ったのか?」

 困惑する将臣とは対照的に望美は嬉しそうに頷いた。ちらりと、望美の後ろのテーブルを見やる。テーブルには大皿がいくつも並べられている。どの皿も山のようにおにぎりが積み重ねてあった。

「譲くんと見て、一番形のいいのを選んだんだよ」

「そうか」

 将臣は曖昧に答えた。

(味は、味は大丈夫なんだよな?)

 塩と砂糖を間違った、とか。砂糖味のおにぎりは嫌だ。

「その辺は大丈夫です。俺がちゃんと見てましたから」

「へぇー、じゃあ本当に大丈夫なんだな」

先ほど望美から渡された皿に載っているおにぎりを将臣はしげしげと見つめた。

「これをね、今から詰めて将臣くんとどこかに行きたいと思ってるんだけどいい?」

腹が満たされるのはまだ先になりそうだ、と将臣は心の中で苦笑する。

「あぁ、構わないぜ。だけど、その前に……一個食べてもいいか?」

「味見ってこと?」

「うん、まあ、似たようなものだ」

「じゃあ、その間詰めてくるね」

 望美はキッチンへと消えてゆく。

「結構よくできてるじゃねぇか」

 おにぎりをひとつ手に取り、将臣は感嘆した。形も綺麗な三角になってるし、見るからに美味しそうだ。先ほどの不恰好なものとは違う。かなり頑張ったのだろう。

(譲は学校の先生向きだな)

「いただき……」

 将臣がおにぎりを口にしようとした瞬間、

「兄さん、先輩を悲しませるようなこと、絶対するなよ。もししたら、命がないと覚悟していてくれ」

 囁くように耳元で譲が言った。

「おいおい、どういう意味だ?」

「ねー、譲くん。これどうやって詰めようか?」

 絶妙のタイミングで望美が譲を呼んだ。

「そのままの意味だ」

 答えにならない答えを言って、譲はキッチンに行ってしまった。

「まさか、望美が……いや。そんなことはあるはずないよな」

 将臣は首を振って否定する。譲の言ったことはよくわからないが、望美の視線が自分に向くなんてきっとないだろう。

(ま、女の考えていることはよくわからないよな。このおにぎりの意味だって謎だし)

 溜息ひとつ。将臣は胸のうちのもやもやを忘れるように、お茶を飲みほした。

 そして、

「いただきます」

 小さく呟いて、おにぎりを口にしたのだった。

 



END







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