ジャンケンで勝ったら






「よう、惟盛に望美。なんだか楽しそうだな」
 将臣は、仲良くソファーに座っている二人に声をかけた。
「ま、将臣くん! い、いつここに来たの?」
 望美が慌てて惟盛から離れる。
 その顔は何故か、真っ赤だった。
 いったい、何をやっていたのだろう。
 惟盛は表情を変えず、睨むように将臣を見上げている。
 将臣は二人の前のソファーに腰を下ろすと、
「たった今来た」
「人の家にぬかぬかと上がり込むなんて。まったく、礼儀知らずですね」
「いや、何度も押したぜ」
 玄関の前で立つこと十分。
 もう七時を過ぎている。
 この時間なら惟盛は帰ってきていい頃である。
 本当にいないのかなあっと思い、玄関のドアを回すといとも簡単に開いた。
 いるなら、居留守を使わずにでてくれよ! と心の中で突っ突っ込む。
なるべく大きな声で、お邪魔しますと言い、靴を脱いだ。
 部屋の明かりがドア越しに漏れ、人の気配を感じさせる。
 そして冒頭の展開となったわけだ。
 将臣の説明に惟盛は、
「すみません。どうやら聞こえなかったようです」
「本当、わたしも気がつかなかったよ。どうしたの? 将臣くんが惟盛の家に来るなんて珍しいじゃない」
「いや〜、惟盛にちょっと用があってな。うん」
 歯切れ悪く言えば、
「わたし、席外そうか?」
 望美が尋ねる。
「あぁ、そうしてくれると助かる」
「惟盛、終わったら呼んでね。さっきのことだけど、まだわたし負けてないから!」
「わかってますよ、望美」
惟盛が頷いたのを確認すると、望美はどこかほっとした表情になった。
テーブルの上に広がしていた教科書類を鞄の中に詰め込むと、望美はリビングを後にする。
「順調にやってるようだな、惟盛」
「えぇ」
「なあ、何の勝敗を決めてたんだ? 望美の言葉がすごく気になるんだが……」
 何気なく聞いたのに、惟盛は何故か少し赤くなった。
「あ、あなたには関係ないことですよ!」
「まあ、そう言われるのもあたりまえだな。俺だって恋人同士の睦言にまで興味ねぇよ」
「睦言じゃ、ありません」
「ならなんで赤くなるんだ?」
「ちょっとした遊戯をしていただけですよ」
「どんな?」
「だから、あなたには関係ないと言ってるでしょう?」
 惟盛からは不機嫌極まりない、というオーラが出ている。
「まあ、お前じゃなくてあとで望美にでも聞くさ」
「勝手にしてください! 用があってきたんでしょう? 無駄話ばかりしてないで、本題に入ってください」
 惟盛の言葉に将臣は少し間を置いて、
「ちょっとお前と望美の様子を見に来ただけ、って言ったら怒るか? 何しろあいつは俺の大切な幼馴染だしな」
 空笑いで言えば、
「当然です。ですが、大切な幼馴染の様子を見に来た、と言われれば……怒りたくても怒れませんね。八葉でもなく、白龍でもなく、望美は私を選んでくださったのですから。彼女と幼い頃から過ごしてきたあなたたちが心配するのも無理はないことだと思います」
 惟盛は淡々と言った。
「ただし、定期的にこうして家の中に入ってまで監視されるのは解せませんね」
「今回はたまたまだよ。バイト帰りに、思いついたから来たんだ。まさか、望美がいるとは思わなかったぜ」
 惟盛は視線を反らさずに、将臣を見つめている。
将臣の言葉が真偽かどうか見極めているようだった。
「まあ、あなたを信じましょう」
「惟盛、これだけは覚えておけよ。望美をふって泣かせたら、ただじゃおかねぇからな」
「望美は私の生きる意味なのですから、彼女が私の隣からいなくなるなんて考えられません」
「そうか、なら安心だ。水入らずのところすまなかったな」
 将臣はそう言いながら立ち上がった。
「望美――、もう終わったぜ」
 大声でドアに向かって呼ぶ。
数秒後に望美はやってきた。
二人に見送られ、将臣は玄関に立った。
「じゃあ、気をつけて帰ってね」
「あぁ」
「二度と来ないでください」
「もう、惟盛ったら!」
「またいつか、お邪魔させてもらうぜ、惟盛。またな」
 惟盛が何か言おうと口を開く。
 将臣はその前に惟盛の家を飛び出したのだった。



「なあなあ、昨日俺が訪ねたとき惟盛と何やってたんだ?」
 次の朝、学校で望美を捕まえると将臣はさっそく疑問に思っていたことを口にした。
「何って、ただのゲームだよ」
「それは惟盛から聞いてる。俺が聞きたいのはどんな、という部分だ。お前たちがあんまりにも楽しそうにやってたから、気になって眠れなかったんだよ」
 少し紫色になった目元を指差せば、
「く、隈になるほど気になってたの?」
 望美の驚きの声が返ってきた。
 うんうんと頷けば、
「仕方がないなあ。絶対誰にも言わないでよ。惟盛にもだからね」
「約束するぜ」
「ジャンケンをしてたの。それもただのジャンケンジャなくて、負けたら……」
 どんどん望美の声が小さくなる。
 よほど言いにくいことなのだろう。
「キス……するの」
「勝ったほうが負けたほうにか?」
 望美は小さく首肯した。
「惟盛ってああ見えて、結構ジャンケン強いんだよ。何度も挑戦したけど……」
全て惨敗、だったというわけか。
 だから、まだ負けてないから、なのか。
 昨日の望美の台詞を思い出し将臣は、ふとおかしくなって口元を緩めた。
「何、笑ってんの」
 望美が不愉快だというように口を尖らせる。
「お前らが仲良くやってるようで安心したんだ」





―END―

Kiss×Kissで10のお題 Ver.3  様よりお借りしました

一言感想などお気軽に!


サイト内の文章・小説を無断転載・複写することは禁止しています。