Kiss×Kissで10のお題 Ver.3


始発ホーム


 

「気をつけてね、惟盛」

 今から戦場へ向かう兵士への声かけのように、望美は心配そうに言った。

 惟盛は聞き飽きたと言わんばかりに、

「わかってますよ」

「何かあったら電話してね」

「はい」

「やっぱり帰りも迎えに行ったほうがいい?」

「そんな必要はありません」

「可愛い女の子が言い寄ってきても、相手にしちゃダメだよ」

「あなた以外の女子など、目に入りません」

 惟盛は相槌を打ちながら、大げさすぎだ、と思った。

 惟盛が望美の世界に来た時、龍神は彼に住む場所と働く場所を与えてくれた。

 今日は惟盛が会社へ初出勤する日だ。

 望美はわざわざ学校を休んでまで、惟盛を見送りに来てくれた。

 そこまでしなくてもいいのに。

 惟盛は心の中で苦笑する。

 惟盛が望美の世界に来てから、望美は心配性になったような気がする。

 まあ、時期よくなるだろうと思っているが……。

―――もうすぐ電車が到着しますー――

 プラットホームにアナウンスが流れる。

 望美ははっとした表情で、

「あぁ、もう電車が来る!」

「そのようですね」

「何よ、その言い方」

 冷静に言ったのが気に障ったのか、望美は少し怒ったように言った。

 そんな望美を見ながら、惟盛は微笑う。

 柳眉を逆立てるあなたも可愛いですね、と。

 笑わないで! 望美はますます眉を吊り上げる。

「本当に心配なんだから!」

「まったく、あなたと言う人は……」

 惟盛が呆れ果てていると、ホームに電車が到着した。

 自動ドアが開き、乗客が降りてくる。

 惟盛と望美はその邪魔にならないように、少しだけ横に移動した。

「いってらっしゃい」

 望美はさっきの怒りはどこやら発車ベルを告げる電車を見て、寂しそうに言った。

「望美」

 そっと望美の耳元で呟いた。

 そして、彼女の唇に軽く口付けた。

 みるみるうちに望美の顔が赤くなる。

「ここ、人前だよ」

 望美は恥ずかしいような、嬉しいようなそんな表情を見せた。

 



 電車に乗った後、窓の外を見た。

窓越しに望美が口を動かしている。

「いってらっしゃい!」

 もう一度、そう言ったような気がした。

微笑すると惟盛は望美に向かって、

「いってきます」

 電車がゆっくりと動き始めた。






―END―



お題配布元 http://lazbiz.style.coocan.jp/hs/hs_title.html
       







一言感想などお気軽に!

サイト内の文章・小説を無断転載・複写することは禁止しています。