理由
「どうして、怨霊を作り出すんですか」
望美の問いに惟盛は、
「怨霊の姿が一番美しいからですよ。生身の人間なんて儚く、そして脆い。戦場に出ればばすぐに死んでしまう。
それに比べ、怨霊は強い。死んで蘇れば、素晴らしい力を得られるんですよ? 永遠に現世にいられますしね。あなたもなってみませんか、怨霊に」
口の端を歪め楽しそうに哂う惟盛を見て、望美はぞっとした。
この人は尋常じゃない。
心から生きている人間を蔑んでいるんだ。
だから、
「そんなの間違ってる! 生きてる人間が美しくないなんて! 怨霊のほうがずっとずっと……」
「お黙りなさい! あなたに何が解るというのです! それ以上、喋ると命がありませんよ」
びしゃり、と惟盛が望美の言葉を遮った。
惟盛の激しい剣幕に望美はたじろぎながらも口を開こうとした。
絶対に言わなくてはいけない。
そんな望美の心を見抜いたのかぱちんと惟盛が指を鳴らした。
後ろに控えていた鉄鼠が唸り声を上げ一歩前にでる。
仲間がいれば屈することなく言えたはずだ。
しかし現実は違う。
望美は独りだった。
唇を噛み締め言葉を呑み込んだ。
「そう、言わなければいいんです。物分りのよい神子様だ」
惟盛が嘲笑した。
「さあ、質問はこれで終わりですか?」
望美は強張った表情のまま頷いた。
「用が済んだのなら、早くこの場から離れることです」
そう、今は戦いの最中なのだ。
あちらこちらから馬の嘶き、剣を交わす音、人々の悲鳴が聞こえる。
望美は大きく深呼吸すると、精一杯の笑顔で、
「いつか、あなたの考えを変えてみせます」
望美の決意に惟盛が軽く瞠目する。
どうしてそんな気持ちになったかはわからい。
ただ、自分がこの人を変えたい、と強く思ったことは確かだ。
「ご自由に」
哂った顔がそう言ったように見えた。
―END―
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