雨の日はキスの嵐で




 

「んんんっ……」
 望美の唇から甘い吐息が零れ落ちる。
 その声を聞くたび、オレは望美が愛しくてたまらなくなる。
 初めは小鳥たちが啄ばむような口づけ。
 それが自然と、 互いに窒息しそうなほど、濃厚なものに変わってゆく。
 ほんのりと赤くなった頬、うっすらと滲んだ汗。
 すべてが可愛い。
 口づけが長ければ長いほど、望美は可憐でそして艶かしくなってゆく。
 唇を放すと、望美は疲れたのかオレの胸に倒れこんできた。
「もう、ヒノエくん、キス長すぎ!」
 暫くして落ち着いたのか、望美が抗議してきた。
 頬を上気させて、可愛らしい小鳥が囀るように。
「いくら雨降って、公園に誰もいないからって……やりすぎだよ!」
「木の下で雨宿りをしながらのキス、なかなかロマンティックだと思わない?」
 望美の世界の言葉もやっと板についてきた。
 しとしとと降る雨音にオレは耳を済ませる。
 まだまだ止みそうにない。
「このくらいだったら走って帰ってもいいんだけどな」
 望美はオレのキス攻撃から逃れたいのだろう。
 ぼやくように空を見ながら言った。
 オレはその頬を突きながら、
「風邪引いたらどうするんだ?」
「そのときは……」
 望美は上目遣いにオレを見た後、さっと視線を反らした。
「そのときは、なんだい?」
 なんとなく望美の言いたいことはわかる。
 だけど折角だから彼女の口から聞かなきゃね。
「そんなことより、早く帰ろう。陽も沈んできたし、十分キスだってしたでしょう?」
 あらら。
 はぐらかさてしまったぜ。
 まあいい。
 オレは気持ちを切り替えると、
「オレはまだ足りないね」
 望美の耳をぺろりと舐める。
「あ……ふっ」
 望美の身体が震える。
 それが可愛くて面白くて。
 オレの悪戯心をくすぐる。
 望美をさらに抱き寄せると、今度は鼻の頭に口づけを落とす。
 手は望美の腰の辺りを撫でるように触って……。
「帰ってから、帰ってからならいいから。外じゃ、いや」
 望美が叫びにも似た声で訴える。
「仕方がないなあ。これは貸しだよ?」
「ヒノエくんの意地悪」
 望美はむっとしたように頬を膨らませる。
 その頭を優しく撫でながら、景色に目をやった。
 雨粒が見えないところから、どうやら雨は止んだようだ。
「さあ、帰ろうか」
「うん、止んだのなら」
「貸せよ、鞄」
 オレは望美の荷物を彼女から受け取る。

 持ってもらわなくてもいい、と望美は言うのだけれど、学校の鞄はいつ見ても重そうだからさ。

 男なら持つべきだろう?
「ありがとう」
 望美は恥らうような笑みを浮かべた。
 ふふっ。
 神子姫様の可愛らしい笑顔を拝めるならなんだってオレはするさ。
 雨上がりの少し涼しい風が頬を撫でた。




−END−


のぞちゃんが言いたかったのは「看病してね」ですvv







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