あなたがいばしょ
「……神子? 呼んだ?」
望美の声に、空を仰いでいた白龍が振り返る。
「白龍、こんなところにいたんだね」
望美は草を分けながら白龍に近づいた。
ここは駅前の空き地だ。
「白龍と話がしたくて将臣くん家に行ったの。そしたら出かけたって言われちゃってさ」
「だから……こうして探しに来てくれたの?」
青年の姿になっても白龍の目には相変わらず翳(かげ)りはない。
あどけない瞳が望美を映し出す。
そうだよ、と望美は頷く。
「ありがとう、神子。でも、夜道を歩くなんて……危なすぎるよ」
そう言いながら白龍はおもむろにポケットから携帯電話を取り出した。
「めーるをくれれば、すぐに戻ったのに……」
「ゴメンなさい……。急いでたから思いつかなくて……」
それは本当だった。
どうしても白龍に伝えたいことがあって望美は焦っていた。
だから、将臣に居場所を聞くなり、この空き地へと直行したのだ。
「神子……」
言い過ぎたと思ったのか、白龍は少し口調を和らげた。
「神子、あなたは私の愛する人。もっと自分を大切にしてほしい。心配だから」
「ありがとう、白龍。これから気をつけるね」
望美は真っ直ぐに白龍を見た。
「わかってくれたなら、いいんだ」
白龍は微笑んだ。
「気を感じていたんだ」
空き地で何をしていたのかという質問に対しての白龍の答え。
望美はその言葉に首を傾げた。
気を感じていた、という意味がよくわからない。
望美にとって今日の夜はいつもと変わらない夜だった。
春なのに少々肌寒いことと、月が翳っていないということを除けば。
ひんやりとした夜風が望美の頬を撫でてゆく。
二人はまだ空き地にいた。
「今日は……気の流れがとても心地いい」
白龍が目を閉じ、うっとりと呟くように言った。
「気の流れ?」
「神子にはわからないの?」
白龍は少し寂しそうに言った。
「うん、よくわからない。ゴメンね、白龍」
でも、と小さく呟いて望美は空を仰いだ。
「空がいつもより澄んで綺麗だってことはわかるよ」
こんな日は気持ちがいいよね、望美は白龍に微笑いかけた。
「うん」
白龍もつられて微笑み返す。
「ねぇ、白龍。わたしの言いたかったことはね」
そこで一呼吸置くと、望美は白龍の首に抱きついた。
背伸びをし耳元で囁きかける。
「あなたが、わたしの居場所だってこと」
わざわざ夜道を走って伝えるほどのことではなかったかもしれない。
でも、望美にとってはどうしても白龍に伝えたかった一言だった。
楽しい時も、辛い時も、悲しい時も、いつも白龍は傍にいてくれた。
いつの間にかそれが当たり前になっていて。
だから、望美は白龍を選んだ。
自分を偽らず、ありのまま接することが出来る存在(他の人なら平気で偽るという意味ではない。ただ、白龍の前なら自然体を出しやすいというだけ)
白龍は照れたように頬を緩めた。
そしてさらに望美を抱き寄せる。
「神子……あなたこそ私の居場所だよ」
―END―
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