鈴の願い




 ずっとあなたを待っていた。

 五行も陰陽もないこの時空の狭間で。

 神子に鈴の音が届けばいい。

 ただただそれだけをずっと願ってた。




「じゃあ、白龍はひとりで時空の狭間にいたんだね。寂しくなかった?」

 望美の問いに白龍は首をかしげた。

 白い、いや光の当たり具合によっては薄水色にも銀色にも見える長髪が、やわらかな春風に吹かれたなびく。

「さびしい……?」

 白龍は困ったような瞳で望美を見た。
 
 龍神は人の言葉をあまり知らないという。

 寂しい、という言葉も知らないのだろうか。
 
「寂しいっていうのは……孤独を感じるってことだよ。誰にも頼れなくて苦しいって思うこと」

「孤独……?」

 望美の言葉にますます白龍は首を傾げた。

 言い方が悪かったのだろうか。

 神と人は考え方が違いすぎる。

 いくら自分が白龍の神子といっても、神の言葉を知っているわけではない。

 どうやって伝えようか、望美は思案した。

「必ず神子に逢える、と思ってた。私の神子きっと見つかる、そう信じてた。

だから寂しさ、あまり感じなかった。それに神子は私の鈴の音ちゃんと聞いてくれた」

 白龍は目を細めた。

「あなたが……神子が……ここにいる。大好きな神子がいるから、私は大丈夫」

「白龍……」

 寂しさを寂しいとは思わずに、ただ神子にきっと逢えると信じた龍。

 白龍のそのひたむきな思いに望美は感心した。

 自分は鈴の音を聞いた。

 そして白龍の神子に選ばれ、異世界やってきた。

 何度もこの世界から逃げ出したいと思っただろう。

 そんな望美を見かねた白龍が、龍の力である逆鱗を外そうとしたこともあった。

(白龍はひとりで頑張ってきたんだもの。わたしも見習わなくちゃ)

「神子……私変なこと言った?」

 ふと気がつけば白龍が顔を覗き込んでくる。

「ありがとう、白龍。わたし神子としてもっと頑張るね」

「うん! 私も早く力を取り戻すから。神子を守るよ」

 白龍はにっこりと笑った。

 それにつられて望美も微笑する。

 風に吹かれ桜の花びらがはらはらと舞い落ちる。

 仁和寺の御室桜。

 白龍が龍であったときから神子に見せたいと思っていた桜。

 薄紅の花びらが艶やかに咲き誇っている。

「ふふっ、桜が綺麗だね」

 はらりと舞う花びらを手で掴むしぐさをしながら、望美は言った。

「気に入ってくれた? 私が一番好きな桜。この桜の木気は神子と同じで清浄で、とても心地がいい」

「白龍のいうとおり心が安らぐ気がするよ。案内してくれてありがとう」

 白龍ははじけるような笑みを見せた。

 彼が望美だけに見せる、特別な笑顔で。




 神子、あなたに逢えて本当に嬉しい。

 私の鈴の音、あなたに届いてよかった。

 精一杯神子を守るから。

 力を取り戻して、強くなる。

 そして……また神子を元の世界に送るね。





―END―

第二章の白龍のイベントから。
成長後の話も書きたいですvv



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