There are no choices






最近考えることがある。
わたしはディーとダムのどちらが好きなのか、ということを。


ふたりとも同じぐらい無邪気で、同じぐらい無茶苦茶なことを考えて、同じぐらい悪意に染まっているのだが。
 双子は双子でも彼らはれっきとした一人の人間である。
同じように見えても性格は異なっているはずだ。


どうしてこんなことを考えているかというと、それはディーとダムが子の間の会合のとき、大人の姿になったからだ。



それまで双子は自分の弟みたいな感じで接していた彼らが、急に大人の姿になった。
しかも会合が終わっても大人になったり子供になったり自由に変化をしている。



子供のときはただ可愛い、で済ませられていたが、大人になってからは違う。
扱い方に困る。
可愛いのは可愛いのだが、それよりもかっこいい、が先に来てしまう。
大人の姿でも子供の頃と同じようにじゃれあってくるのだからたまったものじゃない。
一緒にお風呂に入ったり、寝たりなど……。
始終どきどきしっぱなしだ。



 わたしはこのふたりをきっと意識し始めてのではと思う。


(だから、どっちが好きかって考えてるんだけど)


 なかなか決まらない。二人揃っての「好き」「かっこいい」だからだ。


思えば、ふたりが単独で行動している姿を見たことがない。
門番のときはもちろんそうだが、わたしにじゃれてくるときも、町で見かけるときもいつも一緒だ。


(ふたりもわたしのことが好きで……このままだと取り合いになるんじゃないかしら)



もしわたしが片方を選ぶと、もう一方と斬りあいになったりするのだろうか。
「世界中で一番仲良しの双子」と彼らは言っているが、いざとなればその反対もできそうだ。彼らは無邪気で可愛い子供ではない。
ブラッディ・ツインズという異名を持つ子供なのだ。



(ふたりとも恋人!?)

 わたしはそこまで考えてあわあわと首を振る。

 恋愛は面倒だ。そうでしょう、アリス? 自問自答する。



そうだ、恋愛なんてこれからも避けて通りたい。
だから双子が好き、という気持ちにも恋愛感情は絡んでないはずだ。
どっちが好きかということにも恋愛感情は一切ナシなのだ。
しいて言うなら姉弟愛というべきだろうか。



 わたしはそれ以上考えるのがだるくなって、読みかけの本に視線を落とした。

 そのときだった。

「お姉さん!」

「お姉さーん!」

 二つの声が聞こえてきた。

 同時にどんどんと扉を叩く音がする。

 わたしのよく知る声だ。


見上げれば空はいつの間にか暗くなっている。
夕方から夜になっているのではない。
朝から夜に変わったのだ。
わたしは時間が変わるぐらい何時間帯も想像にふけっていたわけではないのだから。



夜に訪問してくるといえば彼らしかいない。
たまに別の紅茶狂いの人とかにんじん好きの可愛いウサギが来ることもあるが、まれだ。
というかそもそも女の子の部屋に彼らは気軽に来たりしない。



どんどんという音はいつの間にかだんだんという大きな音に変わっている。
足で扉を蹴っているのだろうか。
蹴破られたら大変だ。
ドアは壊れても自然に時間がたてば元通りになる。
だが、その間、扉のない部屋で寝たり、着替えたりしなくてはならない。
そんなことは引越し直後だけで十分だ。

「今開けるから待って」

 わたしはだんだんという音に負けないぐらい大きな声を出した。

 ぴたっと音が止まる。

 わたしは鍵を外し、扉を開ける。

 目の前には子供姿の双子が立っていた。

 赤と青。色以外は寸分も違わないほどそっくりだ。

「よかった、お姉さん、ちゃんと中にいたんだね!」

「兄弟の言うとおりしてよかったよ。そうでなかったら、僕らこの斧で扉を切るところだった」

 双子が口々に喋る。

「何の用事?」

 わたしはわかっているくせに双子に問う。

 夜の時間帯に彼らが誘いに来るといえば、大概あれ、である。

「やだなあ、お姉さん。わからないの?」

「僕たちの格好見て見当つかないの?」

 困惑顔の双子はそれぞれ手に着替えを持っていた。

「わかってるわよ。お風呂でしょう?」

 言ったとたんに双子の顔がぱあっと輝く。

「そうだよそうだよ、僕らお姉さんをお風呂に誘いに来たんだよ」

「わかってて言ったってことは、僕らとお風呂に入るのを楽しみにしてくれてたんだね。嬉しいな」


 双子はぎゅう、ぎゅう、と右から左から抱きついてきた。
 着替えのパジャマが床に落ちるのもお構いなしだ。


 無邪気に笑う双子は可愛い。
 だからつい頭を撫でてしまう。


「ダム」

 赤い帽子の方が顔を上げる。

「ディー」

 青い帽子の方も同じように顔を上げる。

 ふたりともきょとんとした顔でわたしの言葉を待っている。

 わたしはふたりを抱き寄せると、

「あなたたち、ふたりとも大好きよ」

「わわっ、くすぐったいよ。お姉さん!」

 焦った声を出したのはディー。

「でも、お姉さんにぎゅっとされて嬉しいな。ね、兄弟」

 力を込めて抱き返してくれたのはダム。

 どちらが好きだ、決められるはずもない。

 この先、決めなければいけない選択があったとしてもわたしは選ばないでいよう。

 トゥイードル=ディー&ダム。どちらもわたしの大切で好きな人だから。



END







一言感想などお気軽に!


サイト内の文章・小説を無断転載・複写することは禁止しています。