休憩時間






「あ、お姉さんだ!」

 わたしを見つけるやいなや門番の双子たちが駆け寄ってきた。

「ディー、ダム!」

「お姉さん、お姉さん。今暇? 暇だよねぇ? こうして外をのんびりと歩いているんだもの」

「暇……というか休憩時間よ」

「そうか、やったね、兄弟!」

 二人はそろってガッツポーズを取る。

 仕草も表情も同じで、それが可愛くてつい頬が緩んでしまう。

「これで面白いことできる。ねぇねぇ、お姉さん。今から僕らと遊びに行こうよ!」

 右から左から袖を引っ張りながら双子が言う。

「遊びに行くって。あんたたちは今、わたしと違って仕事中でしょう?」

 やんわりと彼らの手を振り払いながら尋ねると、


「僕らは大丈夫、暇だよ。すっごく暇。お客も刺客も誰も来ないんだ。折角兄弟と斧を磨いたのに切れ味を試せなくて残念。それぐらい時間があるんだ」


 ディーの言葉にわたしは彼が持っている斧に視線を向けた。太陽の光りに反射してぎらぎらと斧の刃が煌いている。双子の斧はいつも綺麗に手入されているのだが、今日はいつも以上によく磨かれていた。


(よく斬れそうよね。新品みたい)


 光る斧の刃を見ながら悠長に考える。これは子供が遊ぶ玩具ではない。それなのに、よく斬れそうよね、など暢気に考えるわたしは、かなりこの世界に毒されたと思う。初めてこの世界に来たときは嫌でたまらなかったはずなのに。


(染まらない人間なんてないのかも)


―――彼らはこれを武器として使う。人を斬り殺す。無邪気な笑みのまま人を簡単に屠ってしまう。


(さすがはブラッディ・ツインズと言うべきか)

「お姉さん、遊ぼう」

 くいくいと再び双子が袖を掴んでくる。



「ボスだって僕らがサボる理由わかってくれるよ。だって誰〜も来ないんだもの。育ち盛りの子供には運動が必要。だから遊ばないと」


「そうそう、兄弟の言うとおりだよ。僕らは育ち盛りの子供なんだ。門の前に突っ立っていたって運動不足になるだけだよ」


「運動不足……そうは言っても今は仕事中でしょう? 休憩時間でもないのに遊べないわ」

「仕事中だからダメなんだね」

 双子はお互いの顔を見ると頷きあった。

「さっ、仕事は終わり! 休憩時間だっ!」

 ディーが大声で叫び、両手を高く伸ばし伸びをした。

「やっと仕事が終わった! 休憩しなきゃっ!」

 ダムもディーと同じように伸びをする。

 きゃっきゃっと楽しそうに笑う双子。

「えっ、どうしたの、急に」

 戸惑うわたしに、双子は嬉しそうに言った。

「お姉さんは仕事中だから遊べないって言ったよね? だから僕たち、休憩をすることにしたんだ」

「兄弟と決めたんだよ」

 えへんと胸を張る双子に、

「休憩時間は自分で決めるものではないでしょう? 一日のシフトがあって……」

 わたしの説教は言い終わる前に双子によって遮られる。

「早く行こうよ。ひよこウサギが来る前にさ」


「休憩時間になってまで馬鹿ウサギを見たくない。楽しい気分が台無しだ。僕らが見るのは……お姉さんだけでいい」


 そう言いながらディーがふわりと頬にキスをしてきた。

「あ、兄弟、抜け駆けはズルイ」

 むくれたダムにディーは平然と返した。

「兄弟もすればいいじゃないか」

「僕も……見るのはお姉さんだけにしたいな」

 耳元で囁くように言い、ダムが頬にちゅっとキスをした。

「ディー……ダム……全くあんたたちは」

 わたしは弱い。

 この双子に物凄く弱い。

 子供であることを大いに利用して甘えてきて、狡賢いのに。

 どうしてそんな双子たちを弟みたいで可愛い、と思えるのだろう。

(きっと、この子たちのことを本当に好きだから許せるのね)

「わかったわよ。遊びに行きましょう?」

 双子は驚いたようにわたしを見た。

 彼らの頭の中では別の展開が用意されていたのだろうか。

 瞠目した紅と青、四つの瞳にわたしの影が映る。

「どうしたの? 早く行きましょう。エリオットに見つからないうちに」

 笑顔で二人に問いかける。

「うん、行こう!」

「森ぐらい遠くに行こう! 沢山お姉さんと遊べるようにさ!」

「とにもかくにも、まずはここを離れることが優先だよ、兄弟。遊び場所はその後で考えよう」

 お姉さん、と呼ばれ、大きな二つの手が差し出される。

 見上げると、双子はいつの間にか大人になっていた。


「早く走れるように僕ら、大人になったんだよ。でもそれだと小さくなったお姉さんが僕らについて来られなくて困る」

「だから、手を握って。一緒に走ろうよ」

 にっこりと笑う双子は見分けがつきやすい。

 ダムはヘアピンで前髪を止めてるし、ディーは髪を結っている。

 大きくなった双子の手をそっと握る。


 もともと体温がたかいのだろうか。それとも本来の姿が子供だからなのか。ふたりの手はあたたかく心地よかった。

「転ばないように気をつけてね」

「もし転びそうになっても僕らが助けるから」

 ふたりは走り出す。わたしもワンテンポ遅れてふたりに引っ張られる。

 森までとは言わず、この世界を一周してもいい。そのぐらい二人と一緒にいたい。

(ずうっと三人一緒にいようね)

 楽しそうに笑い合いながら走る双子の背中にそっと呟いた。




END







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