短冊に何を祈ろう





「敦盛さんは短冊になんて書きますか?」

 色鮮やかな短冊を手に持った神子が尋ねてきた。

 どうやら種種ある中から、好きな色を選んでほしいということらしい。

 私は神子から短冊を受け取った。


「神子の心遣い、感謝する。だが、私は穢れた存在だ。願い事などしてはならないだろう」


 そう、私は怨霊。

 怨霊が願うなど許されないだろう。

 既にこの世のものではないのだから。

「そんな悲しいこと言わないでください」

 あぁ、そうかもしれない。

 あなたならきっとそう思うだろう。

 あなたは慈しみ深い方だから。

 怨霊も生きているものも対等に接する。


「七夕で怨霊は願っちゃいけないって誰が決めたんですか? 怨霊が祈ると織姫と彦星は怒るんですか? 私は違うと思います」


 珍しくは強い神子の口調。

 私は気圧された。

「怨霊だってもとは人だった。敦盛さんも……」

「だが、怨霊は……私は穢れてるんだ」



「それでも願ってはいけないなんてことありません! 敦盛さんは確かに怨霊かもしれない。でも人の心も持っている。他の怨霊とは違う。敦盛さんはみんなと変わりない。だから、願っても大丈夫です」



 神子……あなたはどうして私にあたたかな光りを注いでくれるのだろう。


 その光りに私は癒され、自分が穢れた存在だだということをつい忘れてしまいそうになる。

「もし、敦盛さんが願い事して、織姫たちの怒りに触れたとしても、わたしが敦盛さんを守ります!」

「神子……」


「他の八葉のみんなも楽しみにしてるんです。敦盛さんだけ参加しないのは悲しすぎます」


「本当に私が願い事を書いてもいいのだろうか」

「もちろん!」

 にっこりと花が咲くように笑う神子。

 あぁ、この笑顔の傍にいつまでもいれたなら。

 叶うかどうかはわからない。

 それでも願い事をこの短冊に書いてみよう。

 私は短冊の色を選び始めた。

 




−END−