「お誕生日おめでとうございます」
彰紋の言葉に花梨は照れたように微笑した。
目の前には十七本――――つまり花梨の歳の数だけ蝋燭を刺したケーキがある。
「ありがとう、彰紋くん」
「この世界でこうして、あなたの誕生日を祝う日が来るとは……思ってもいませんでした」
彰紋は一年前に、異世界の京から花梨の世界に来た。
生まれた日を祝う慣習があると聞いていた彰紋は、
異世界にいるときからずっと花梨の誕生日を祝いたいと思っていたのだ。
(僕に自分らしく生きていい、ということを教えてくれたあなた。
僕はあなたが誕生した日を祝いたい。
花梨さんを神子に選んでくださった龍神様とその縁に感謝したい)
「じゃあ、火をつけようか」
「えぇ、そうしましょう」
花梨はチャッカマンを手に持ち、一つ一つ蝋燭に火を点けてゆく。
すべての蝋燭に日が燈し終わると、彰紋は電気を消した。
「十七本の蝋燭となると結構明るいね」
蝋燭の燈りに照らされ、花梨が微笑しているのがわかった。
つられて彰紋も微笑む。
「一気に消せるかな」
「できる限り沢山息を吸い込んでみてはいかがです?」
彰紋の言葉に花梨が頷く。
そして。
数を数えるように間を空けた後、ふーっと強く息を蝋燭に吹きかけた。
オレンジ色の光りが波立つように揺れ、溶けるように消えてゆく。
「あと二本だね」
花梨は確認するように言った。
顔を近づけ、残りの蝋燭を吹き消してゆく。
辺りが一点の光りもなく闇に包まれた。
「凄いですね、花梨さん。ほとんどの蝋燭を一気に消せるなんて」
「合唱部に入ってるから、腹式呼吸の効果なのかも」
そう言いながら花梨が立ち上がった。
恐らく電気のスイッチを入れにいくのだろう。
「待ってください、花梨さん」
「どうしたの、彰紋くん」
花梨が立ち止まったのがわかった。
「もう少しこのままでいてくれませんか?」
「何かあるの?」
「えぇ、少し……」
彰紋は言葉を濁した。
深呼吸をすると彰紋は席を立った。
花梨の傍までゆき、
「実は、あなたに贈り物があるんです」
後ろ向きに抱きついた。
「あ、彰紋くん?」
花梨をぎゅと抱き締めながら、すばやく手を動かす。
手探りで見つけた花梨の指先に滑り込ませたもの――――。
「もう大丈夫ですよ」
彰紋は電気を点けた。
「彰紋くん、何か手につけたみたいだけど……」
そう言いながら花梨は指先を見て絶句した。
「こ、これって……」
銀色の指輪が小指にはめられていた。
真ん中に薄水色の石が埋め込まれていた。
「藍玉(アクアマリン)の指輪です。薄水色があなたに似合うと思って……」
気に入られなかったらどうしようと不安交じりで言うと、
「ありがとう、すっごく嬉しいよ。藍玉の指輪!」
花梨はふわりと微笑した。
太陽みたいに明るくきらきらとした笑顔で。
「気に入ってくださったようでなによりです。
改めておめでとうございます。花梨さん、僕、あなたに出逢えて本当によかった」
「わたしも、彰紋くんと出逢えて嬉しかったよ」
「生まれてきてくれてありがとう、花梨さん」
彰紋は指輪をつけた方の花梨の手に自分の手を絡めた。
そのまま花梨を抱き寄せると、その唇に軽く口づけを落とした。
|